商品・役務の類否判断

[作成・更新日:2018.1.10]

 商標法には「商品の類似」なる概念が導入されています。たとえば、商標の登録要件に関する規定の代表格である4条1項11号には、商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものについては、商標登録を受けることができないと規定され、また、いわゆる禁止権に関して規定する37条1号には、指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用は、商標権を侵害するものとみなすと規定されています。
 この「類似」について、商標法上の定義はありません。しかし、下記判例によれば、通常同一営業主により製造又は販売されている、同一の店舗で販売されるのが通常であるかどうかというような取引の実情を考慮しつつ、商品に同一又は類似の商標を使用するときに、同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認混同されるおそれがあるか否かによって、商品の類否が判断されることになります。
 なお、特許庁作成の商標審査基準では、
「11.商品の類否を判断するに際しては、次の基準を総合的に考慮するものとする。この場合には、原則として、類似商品・役務審査基準によるものとする。
(イ) 生産部門が一致するかどうか
(ロ) 販売部門が一致するかどうか
(ハ) 原材料及び品質が一致するかどうか
(ニ) 用途が一致するかどうか
(ホ) 需要者の範囲が一致するかどうか
(ヘ) 完成品と部品との関係にあるかどうか
12.役務の類否を判断するに際しては、次の基準を総合的に考慮するものとする。この場合には、原則として、類似商品・役務審査基準によるものとする。
(イ) 提供の手段、目的又は場所が一致するかどうか
(ロ) 提供に関連する物品が一致するかどうか
(ハ) 需要者の範囲が一致するかどうか
(ニ) 業種が同じかどうか
(ホ) 当該役務に関する業務や事業者を規制する法律が同じかどうか
(ヘ) 同一の事業者が提供するものであるかどうか
13.商品と役務の類否を判断するに際しては、例えば、次の基準を総合的に考慮した上で、個別具体的に判断するものとする。ただし、類似商品・役務審査基準に掲載される商品と役務については、原則として、同基準によるものとする。
(イ) 商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうか
(ロ) 商品と役務の用途が一致するかどうか
(ハ) 商品の販売場所と役務の提供場所が一致するかどうか
(ニ) 需要者の範囲が一致するかどうか」
と規定されています(「第3 第4条第1項及び第3項(不登録事由)」「十、第4条第1項第11号(先願に係る他人の登録商標)」)。

<参考>商標審査基準

 

● 最判昭36・6・27 昭和33年(オ)1104 民集15巻6号1730頁、裁判集民事52号513頁 「橘正宗事件」
「 商標が類似のものであるかどうかは、その商標を或る商品につき使用した場合に、商品の出所について誤認混同を生ずる虞があると認められるものであるかどうかということにより判定すべきものと解するのが相当である。そして、指定商品が類似のものであるかどうかは、原判示のように、商品自体が取引上誤認混同の虞があるかどうかにより判定すべきものではなく、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞がある認められる関係にある場合には、たとえ、商品自体が互に誤認混同を生ずる虞がないものであっても、それらの商標は商標法(大正一〇年法律九九号)二条九号にいう類似の商品の商品にあたると解するのが相当である。本件においては「橘正宗」なる商標中「正宗」は清酒を現わす慣用標章と解され、「橘焼酎」なる商標中「焼酎」は普通名詞であるから、右両商標は要部を共通にするものであるのみならず、原審の確定する事実によれば、同一メーカーで清酒と焼酎との製造免許を受けているものが多いというのであるから、いま「橘焼酎」なる商標を使用して焼酎を製造する営業主がある場合に、他方で「橘正宗」なる商標を使用して清酒を製造する営業主があるときは、これらの商品は、いずれも、「橘」じるしの商標を使用して酒類を製造する同一営業主から出たものと一般世人に誤認させる虞があることは明らかであって、「橘焼酎」なる商標が著名のものであるかどうかは右の判断に影響を及ぼうものではない。それ故、「橘焼酎」と「橘正宗」とは類似の商標と認むべきであるのみならず、右両商標の指定商品もまた類似の商品と認むべきである。」

 

● 最判昭38・10・4 昭和36年(オ)1388 民集17巻9号1155頁、裁判集民事68号199頁 「サンヨウタイヤー事件」
「 商品の出所について誤認混同を生ずる虞の有無、すなわち、商品の類似するかどうかは、場合々々に応じて判断せられるべき問題であつて、類似商品に対する禁止権をあまりに広く認めることは、商標権者を保護するのあまり、他の者の営業に関する自由な活動を不当に制限する虞がないとはいえない。本件のように、タイヤーを指定商品とする商標と類似する商標を完成品たる自転車に使用したからといつて、直ちに、自転車とタイヤーとその出所について誤認混同を生ずる虞があるとは考えられない。要するに、二つの商品が用途において密接な関係があり、同一店舗において同一需要者に販売されるということだけで、両者を類似商品として被上告人の請求を全面的に容認した原判示は首肯することができない。

 

● 最判昭39・6・16 昭和37年(オ)955 民集18巻5号774頁、裁判集民事74号77頁 「PEACOCK事件」
「 商標の類否決定の一要素としての指定商品の類否を判定するにあたっては、所論のごとく商品の品質、形状、用途が同一であるかどうかを基準とするだけではなく、さらに、その用途において密接な関連を有するかどうかとか、同一の店舗で販売されるのが通常であるかどうかというような取引の実情をも考慮すべきことは、むしろ、当然であり、・・・
 いま本件についてこれをみるのに、上告人の登録出願にかかる商標は、「PEACOCK」なる文字より成り、・・・をその指定商品とし、引用商標は、孔雀の図形と「諸星墨汁」なる文字より成り、・・・をその指定商品とするものであるが、・・・本願商標の指定商品には、引用商標の指定商品たる墨汁が特に除外されており、また、引用商標の指定商品とは品質、形状、用途の点において異なるものがあるとしても、・・・原判決が両者はともに第五一類文房具に属するものであって、書写およびこれと密接に結合された用途に使用されるものであり、且つ、同一の店舗において公衆に販売されるのを常態とするものであるから、本願商標をその指定商品に使用して売り出せば一般世人に引用商標の商品と同一営業主の製造または販売にかかるものと誤認混同される虞れがあるとして、本願商標は法二条一項九号に該当すると判断したのは、正当であって、所論の違法はない。」

 

● 最判昭41・2・22 昭和38年(オ)914 民集20巻2号234頁、裁判集民事82号435頁 「寶事件」
「 原判決は、本願商標の指定商品と補助参加人の著名な商標による商品とは同一店舗において取り扱われることが多いことを顕著な事実として認定し、両者の商品は、本来品質、形状、用途を異にするものであつても、同一店舗において取り扱われることが多いという取引の実態に徴し、補助参加人の商標に印象づけられている多数需要者は、購入に際し類似商標を使用する他の業者の商品を補助参加人の商品と誤認しやすく、そこにその出所の混同を生じる虞れがあるものと判断したのである。このように同一店舗において取引されることを商品混同の虞れの有無の判定の基準とすることは、従来裁判例の採用するところであり(大審院大正一五年五月一四日判決、大審民集五巻六号三七一頁、同庁昭和一三年一〇月一五日判決、同上一七巻二一号一九九三頁参照)、叙上原判決の判定は相当といわなければならない。」

 

● 最判昭43・11・15 昭和39年(行ツ)54 民集22巻12号2559頁、裁判集民事93号331頁 「三国一事件」
「 商品自体が取引上互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、それらの商品に同一または類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造または販売にかかる商品と誤認混同されるおそれがある場合には、これらの商品は旧商標法(大正一〇年法律九九号)二条一項九号にいう類似の商品にあたると解すべきこと(当裁判所昭和三三年(オ)第一一〇四号同三六年六月二七日第三小法廷判決、民集一五巻六号一七三〇頁。なお、昭和三八年(オ)第九一四号同四一年二月二二日第三小法廷判決、民集二〇巻二号二三四頁参照)、また、登録出願にかかる商標の指定商品が同法施行規則(大正一〇年農商務省令三六号)所定の類別のうち引用商標の指定商品をとくに除外したものであり、また両商品は互いに品質・形状・用途を異にするものであっても、それに同一または類似の商標を使用すれば同一営業主の製造または販売にかかる商品と誤認混同されるおそれがある場合には、これらの商品は、前記にいう類似の商品にあたると解すべきこと(当裁判所昭和三七年(オ)第九五五号同三九年六月一六日第三小法廷判決、民集一八巻五号七七四頁)は、すでに当裁判所の判例とするところである。
 そして、以上の判例の趣旨とするところは、本件のごとく旧商標法二条一項一〇号に関する商品の類否の判定についても、そのまま妥当する。したがって、原判決のいうごとく、本件商標の指定商品が、旧四三類「菓子及麺麭ノ類」からとくに上告人の有した商標の指定商品たる「餅」を除外したものであって、また、それが餅とは品質・形状・用途等を異にする商品を含むものであるとしても、これら両者の指定商品は、必ずしも、つねにその製造・発売元を異にするものとはいえないから、同条一項一〇号にいう「類似ノ商品」に該当するものといわなければならない。」

 

● 最判平23・12・20 平成21年(行ヒ)217 民集65巻9号3568頁、裁時1546号7頁 「ARIKA事件」
「 商標登録出願は、商標の使用をする商品又は役務を、商標法施行令で定める商品及び役務の区分に従って指定してしなければならないとされているところ(商標法6条1項、2項)、商標法施行令は、同区分を、「千九百六十七年七月十四日にストックホルムで及び千九百七十七年五月十三日にジュネーヴで改正され並びに千九百七十九年十月二日に修正された標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に関する千九百五十七年六月十五日のニース協定」1条に規定する国際分類(以下、単に「国際分類」という。)に従って定めるとともに、各区分に、その属する商品又は役務の内容を理解するための目安となる名称を付し(同令1条、別表)、商標法施行規則は、上記各区分に属する商品又は役務を、国際分類に即し、かつ、各区分内において更に細分類をして定めている(商標法施行令1条、商標法施行規則6条、別表)。また、特許庁は、商標登録出願の審査などに当たり商品又は役務の類否を検討する際の基準としてまとめている類似商品・役務審査基準において、互いに類似する商品又は役務を同一の類似群に属するものとして定めている。
 そうすると、商標法施行規則別表において定められた商品又は役務の意義は、商標法施行令別表の区分に付された名称、商標法施行規則別表において当該区分に属するものとされた商品又は役務の内容や性質、国際分類を構成する類別表注釈において示された商品又は役務についての説明、類似商品・役務審査基準における類似群の同一性などを参酌して解釈するのが相当であるということができる。」

 

● 知財高判平28・2・17 平成27年(行ケ)10134
「 商標法4条1項11号は、「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(中略)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」の商標登録を禁じている。そして、経済の発展に伴う産業の多様化や多角化、商品流通過程の複雑化等の事情を踏まえると、使用者の業務上信用の維持を図るという商標の目的(商標法1条)を達成するためには、商品の属性と近似する商品についての商標の使用を禁止するだけでは足りず、同一の営業主の提供した商品であるという誤解を生じさせる商標の使用をも禁止する必要があるというべきである。
 そうすると、指定商品の類似性の有無については、「それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認される虞がある認められる関係にある」か否かにより判断されるべきであり(最高裁昭和36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁)、「商品の品質、形状、用途が同一であるかどうかを基準とするだけではなく、さらに、その用途において密接な関連を有するかどうかとか、同一の店舗で販売されるのが通常であるかどうかというような取引の実情をも考慮すべき」である(最高裁昭和39年6月16日第三小法廷判決・民集18巻5号774頁)。そして、「商品自体が取引上互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても、それらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認混同されるおそれがある場合」には、「類似の商品」に当たると解すべきである(最高裁昭和43年11月15日第二小法廷判決・民集22巻12号2559頁)。
なお、上記判断は、誤認混同のおそれの判断は、商標の類似性と商品の類似性の両方が要素となり、これらの要素を総合的に考慮して行うことを示すものであるが、商品の類似性は、商標の類似性とは独立した要素であり、登録に係る商標や引用商標の具体的な構成を離れて、判断すべきである。
 ところで、指定商品に関し、商標法6条1項、2項は、商標登録出願について、商標の使用をする商品又は役務を、政令で定める商品及び役務の区分に従って指定してしなければならないとしている。商標法施行令は、上記条項を受け、同区分を、「千九百六十七年七月十四日にストックホルムで及び千九百七十七年五月十三日にジュネーヴで改正され並びに千九百七十九年十月二日に修正された標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に関する千九百五十七年六月十五日のニース協定」1条に規定する国際分類(国際分類)に従って定めるとともに、各区分に、その属する商品又は役務の内容を理解するための目安となる名称を付し(商標法施行令1条、政令別表)、商標法施行規則は、上記各区分に属する商品又は役務を、国際分類に即し、かつ、各区分内において更に細分類をして定めている(商標法施行令1条、商標法施行規則6条、省令別表)。特許庁は、商標登録出願の審査などに当たり、指針とすべき「商標審査基準」を定めているが、本件商標の登録出願審査時における「商標審査基準」は、商品の類否判断について、①生産部門の一致、②販売部門の一致、③原材料及び品質の一致、④用途の一致、⑤需要者の一致、⑥完成品と部品との関係該当性といった点を総合考慮することとし、この場合、原則として、「類似商品・役務基準」によるものとしている。「類似商品・役務審査基準」では、省令別表の包括的見出し又はそれを更にある程度具体的にした見出しの名称を、短冊と呼ばれる四角括弧でくくり、同一短冊に含まれる商品は、原則として、互いに類似商品であり、同一短冊に含まれない商品は、原則として、互いに非類似であるとしているものの、商品の個別的・具体的な審査結果によっては、上記推定は絶対的なものではないとして、例外を許容している。このような特許庁の定めた枠組み自体は、上記に示した最高裁判例の示す判断基準に沿うものということができるし、商標法6条3項が、同条2項の商品及び役務の区分が、類似の範囲を定めるものではないと規定していることとも、整合的である。」