PCT国際出願の流れ(フロー)

PCT国際出願の流れ1PCT国際出願の流れ2

 

1.PCT国際出願制度の概要

・PCTとは、特許協力条約 (Patent Cooperation Treaty)の略称です。
・PCT国際出願(正式には「特許協力条約に基づく国際出願」、以下、「国際出願」といいます。)とは、国際的に統一された出願書類を日本語で作成し、日本国特許庁(受理官庁)に提出すれば(条約10条)、すべてのPCT加盟国に同時に出願したことと同じ効果を得られる出願制度のことをいいます(条約11条)。発明に対する特許の付与は国ごとに行われるため(属地主義)、外国において特許を得たい場合、特許を得たい国ごとに直接出願を行うことが原則ですが、国際出願は、それを一まとめで行うようにするもので、手続きが簡素化されるため、出願人の労力、費用的な負担が軽減されるというメリットがあります。このメリットは、出願国が多いほど大きくなります。
・すべてのPCT加盟国に国内出願したのと同じ取り扱いになるため(みなし全指定)、出願時に特許を得たい国を決めておく必要はなく、すべてのPCT加盟国で出願日を確保することができます。ただし、国際出願はあくまで国際段階での出願手続であり、上記のとおり、発明に対する特許の付与は国ごとに行われるため、最終的には特許を得たい国を決めた上で、それらの国に対してその旨の意思表示をし(国内移行)、かつそれらの国ごとに特許付与の可否についての実体審査を受ける必要があります(国内段階)。PCTでは、その決定を優先日(条約2条(xi))から30ヶ月以内に行えばよく(条約22条(1),39条(1)(a))、非常に長い猶予期間が与えられています。
・国際出願に対し、その発明に関する先行技術があるか否かを調査する国際調査が実施され、その結果(国際調査報告)が出願人に提供されます(条約15条)。また、その際には、その発明が進歩性、新規性など実体的な特許要件を備えているか否かについての見解(国際調査見解書)も提供されます。出願人は、これら国際調査報告及び国際調査見解書により、国内移行をするかどうかも含め、どの国に国内移行するかなどの判断が容易となります。

2.国際出願

・パリ条約に基づく優先権主張をして出願する場合は、優先日から12ヶ月以内に出願する必要があります(条約8条(1),(2)(a)、規則2.4,4.10)。先の国内出願(基礎出願)に基づく国内優先権主張をして出願する場合も同様です(条約8条(2)(b))。
・通常は日本国特許庁が受理官庁(条約10条)となって日本国特許庁に出願します。
・日本国特許庁に出願する場合、言語は日本語又は英語です(国際出願法3条1項)。
・国際出願が条約・規則に従って作成されていると認められた場合、国際出願日が認定されます(条約11条(1))。国際出願日が認定された国際出願は、すべてのPCT加盟国を指定したものとみなされ(みなし全指定)、指定国における正規の国内出願とみなされ、国際出願日は、各指定国における実際の出願日とみなされます(条約11条(3))。
・先の国内出願に基づく国内優先権主張をして出願した場合、先の国内出願は、1年4ヶ月を経過した時にみなし取下げとなります(特許法42条1項、特許法施行規則28条の4第2項)。そこで、日本国において出願の存続のさせ方としては、① 国際出願について日本への国内移行手続を行い(先の国内出願はみなし取下げとなる。)、この国際出願に基づく国内出願を係属させる、② 先の国内出願の出願日から1年4ヶ月以内に日本の指定を取り下げるか(特許法42条1項、特許法施行規則28条の4第2項。規則90の2.2(a)によれば、先の国内出願の出願日から30ヶ月を経過する前にいつでも国の指定を取り下げることができますが、これによってみなし取下げとされた先の国内出願が復活することはありません。)、国際出願の願書上で日本の指定を除外しておき(願書第Ⅴ欄の日本国の指定を除外するボックスにチェックする)、先の国内出願を存続させる、③ 先の国内出願の出願日から1年4ヶ月以内に国内優先権主張を取り下げて(特許法42条1項、特許法施行規則28条の4第2項。規則90の2.3(a)によれば、先の国内出願の出願日から30ヶ月を経過する前にいつでも優先権主張を取り下げることができますが、これによってみなし取下げとされた先の国内出願が復活することはありません。)、両出願を併存させる、といった方法があります。

3.国際調査、国際調査報告(ISR:International Search Report)、国際調査見解書(ISO:International Search Opinion)

・国際出願をすると、国際調査機関(ISA:International Searching Authority、出願が日本語の場合は日本国特許庁、英語の場合は日本国特許庁又は欧州特許庁のいずれかの選択)は、請求の範囲に記載されている発明に「関連のある先行技術」を発見することを目的として国際調査を行います(条約15条(1)~(3),16条(1))。
・国際調査報告は、国際調査機関による調査用写しの受領から3ヶ月の期間又は優先日から9ヶ月の期間のうちいずれか遅く満了する期間内に作成され、出願人に送付されます(条約18条(1),(2)、規則42.1)。
・国際調査機関は、さらに、請求の範囲に記載されている発明が特許性(新規性、進歩性(非自明性)、産業上の利用可能性)を有するものと認められるかどうかの見解を示す国際調査見解書を作成します(規則43の2.1)。

4.19条補正

・出願人は、国際調査報告の送付の日から2ヶ月の期間又は優先日から16ヶ月の期間のうちいずれか遅く満了する期間内に、請求の範囲について1回に限り補正をすることができます(条約19条、規則46.1)。

5.国際公開

・国際出願は、優先日から18ヶ月を経過した後、速やかに国際公開されます(条約21条(2))。
・国際公開の内容は、書誌ページ(国際出願日、国際出願番号、出願人、指定国、要約等が記載された「フロントページ」)と明細書、請求の範囲及び図面の全文に加えて、国際調査報告及び国際調査見解書、そして、19条補正があった場合には補正後の請求の範囲等も合わせて掲載されます(規則48.2)。
・国際公開されると、国内法と同じ保護が認められます(特許法184条の10)。

6.非公式コメント

・国際調査見解書を受け取った出願人は、19条補正を提出したり、国際予備審査を請求して、答弁書や34条補正を提出することで、国際調査見解書に反論することができますが、国際予備審査を請求しない場合でも、コメントを提出することで、国際調査見解書に反論することができます。このコメントは、PCTでは明文化して規定されていないので、「非公式コメント」と呼ばれており、指定官庁に送付され、指定官庁の裁量により実体審査に際して参酌されることがあります。

7.補充国際調査、補充国際調査報告

・補充国際調査とは、国際調査を補完するための調査として、国際調査を行う国際調査機関とは別の国際調査機関が行う調査をいい、出願人は、優先日から19ヶ月を経過する前にいつでも補充国際調査を請求することができます(規則45の2.1(a))。複数の国際調査機関が国際調査を行うことで、より多くの適切な先行技術を把握できるという効果が期待できます。
・補充国際調査報告は、優先日から28ヶ月以内に作成され、出願人に送付されます(規則45の2.7(a),45の2.8(a))。

8.国際予備審査、国際予備審査報告(IPER:International Preliminary Examination Report)

・請求の範囲に記載されている発明の特許性については、国際調査見解書が作成されているのですが、さらに見解を入手したい場合や34補正をしたい場合などには、出願人は、国際調査報告の送付の日から3ヶ月の期間又は優先日から22ヶ月の期間のうちいずれか遅く満了する期間までに国際予備審査を請求することができます(条約31条(1)、規則54の2.1)。
・国際予備審査が請求されると、国際予備審査機関(IPEA:International Preliminary Examining Authority、出願が日本語の場合は日本国特許庁、英語の場合は日本国特許庁又は欧州特許庁のうち国際調査を行った方)は、請求の範囲に記載されている発明が特許性(新規性、進歩性(非自明性)、産業上の利用可能性)を有するものと認められるかどうかの問題についての予備的なかつ拘束力のない見解を示すことを目的として国際予備審査を行います(条約32条(1),33条(1))。
・国際調査報告の作成時において未公開等の理由で調査できなかった文献についても、国際予備審査の調査対象とするトップアップ調査が2014年7月1日以後に請求された国際予備審査請求から行われています(規則66.1の3)。
・国際予備審査報告(特許性に関する国際予備報告(第Ⅱ章))は、優先日から28ヶ月の期間又は国際予備審査の開始から6ヶ月の期間又は国際出願の翻訳文を国際予備審査機関が受理した日から6ヶ月の期間のうち最も遅く満了する期間内に作成され、出願人に送付されます(条約35条(1),36条(1)、規則69.2,71.1)。
・国際予備審査が請求された場合には、国際調査見解書は、国際予備審査機関の見解とみなされます(規則66.1の2)
・国際予備審査報告(特許性に関する国際予備報告(第Ⅱ章))(IPRP (II) :International Preliminary Report on Patentability(Chapter II of the Patent Cooperation Treaty))は、各選択官庁に送付されます(条約36(3)(a)、規則73.2)。なお、国際予備審査が請求されない場合は、国際調査見解書と同じ内容の報告書(特許性に関する国際予備報告(第Ⅰ章))(IPRP (I):International Preliminary Report on Patentability(Chapter I of the Patent Cooperation Treaty))が作成され、これが各指定官庁に送付されます(規則44の2.1, 44の2.2)。

9.34条補正

・国際予備審査を請求した出願人は、国際予備審査報告の作成の開始前であれば、明細書、請求の範囲、図面について補正をすることができます(条約34条(2)(b)、規則66.1(b))。
・34条補正(及び19条補正(34条補正により差し替えられ又は取り消されたものとみなされる場合を除く))は、国際予備審査で考慮されます(規則66.1(c),(d))。

10.国内移行、翻訳文提出

・出願人は、特許を得たい国において実体審査を受けるために、優先日から30ヶ月以内にそれらの国へ国内移行手続を行います(条約22条(1),39条(1)(a))。国内移行の際には、それらの国が要求する言語の翻訳文を提出する必要があります(同上)。
・出願人が上記期間内に国内移行手続を行わなかった国については、国際出願は取り下げられたものとみなされます(条約24条(1)(iii))。
・国内移行した後は、それらの国の国内出願と同等の取り扱いとなるため、その後の手続はそれらの国が定める国内法令に従って手続を行います。

参考)
「平成30年度知的財産制度説明会(実務者向け)テキスト」(特許庁)
・ 特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)参照仮訳
・ 特許協力条約に基づく規則(Regulations under the PCT)参照仮訳
・ 特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(国際出願法)